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客員研究員との対談その6<前編>そこに愛はあるのか?を問いかける

LIFULL HOME'S 総研所長
島原 万丈(しまはら まんじょう)

1989年、株式会社リクルート入社。2005年よりリクルート住宅総研に。2013年3月リクルートを退社し、同年7月株式会社ネクストでLIFULL HOME'S総研所長に就任(旧・HOME'S総研)。ユーザー目線での住宅市場の調査研究と提言活 動に従事している。著書に『本当に住んで幸せな街 全国「官能都市ランキング」』(光文社新書)など。その他、一般社団法人リノベーション住宅推進協議会設立発起人、国交省「中古住宅・リフォームトータルプラン」検討委員を務める。
LIFULL HOME'S 総研

所長きむら
当研究所は、2016年7月に「H=ms2」をテーマに立ちあげ、研究を続けてきました。「H=ms2」は、Happiness(幸福)、money(お金)、sense(感性) を表しています。
所員よしだ
これは、今の世の中に向けて、お金は必要だけど、感性が豊かであれば幸せは大きくなるのではないか?と問いかける意味合いの公式です。
所員くどう
今回は、日本の住まいの未来を考える研究所「LIFULL HOME'S(ライフルホームズ)総研」の、島原万丈さんにお越しいただきました。島原さん、どうぞよろしくお願いします。
島原 万丈 さん
はじめまして、島原です。今日はよろしくお願いします。

缶コーヒーからニュータウンまで調査した島原さんの視点とは?

よしだ

当研究所では毎回、客員研究員の方々をお招きしてお話を伺っていまして、島原さんで6回目です。

きむら

今回は初めて、他の研究所の所長さんをお迎えする機会ということもあり、楽しみにしていました。

くどう

島原さんは、市場調査の会社でマーケティングのリサーチの仕事に長く関わり、今現在はユーザー目線で住宅関連や都市の研究調査を重ねられています。実際に生きた声を集める中で培われた、独自の視点と新しい感性による提案をされてきた話を、たっぷりとお聞きできればと思います。

島原さん

ありがとうございます。僕は、新卒でリクルートに入社し、市場調査会社に配属されました。そこでは、リクルートグループ内だけでなく様々な業界の商品開発やブランド戦略、広告宣伝効果測定など多岐に関わりました。その後は、ゼクシィという結婚情報誌のマーケティングを担当し、その後でSUUMOを運営している事業部に異動し、いまのような住まいに関わる研究の仕事をするようになりました。2013年にリクルートを辞め、縁があって現在のLIFULL HOME'S総研所長に就任しました。

きむら

最初に配属された市場調査会社では、どんな調査に関わられていたのでしょうか?

島原さん

「缶コーヒーからニュータウンまで」と言ってるんですけれど。扱ったものは、それぐらい幅があり、毎日が新しいことの連続でしたね。例えば、今日は缶ビールの開発のニーズ調査、明日は口紅のブランドイメージ調査をするというような。レトルト食品のパッケージデザインの調査をすることもあれば、自動車メーカーの企業ブランド戦略もする環境でした。

きむら

それは、かなり幅広いですよね。島原さんのリサーチャー視点が、どのように生まれてきたのか気になります。

島原さん

そうですね。僕の場合は、あくまでも消費者目線。顧客満足度をないがしろにしないという考えがあります。これまで様々な業界を見た後で住宅業界に就いた当時に思ったのは、120円の缶コーヒーつくってる人達の方が4,000万円のマンション売ってる人よりも顧客満足度をすごく考えているなあということでした。

よしだ

なるほど。もう少し詳しくお聞きしたいです。

島原さん

缶コーヒーのような商品は、気に入ったらリピートして何度も買いますよね。一方、住宅は普通の人は何度も購入しない。つまり、缶コーヒーのブランド戦略は味だけでなく、さまざまな要素の満足度が高くないとリピートしてくれないので、リサーチにもすごくお金をかけて考えている。なのに、マンションでは売ったら「さようなら」という感じで、顧客のことをあまり考えていないと僕は感じました。そして、その状況をおかしいと思いました。もちろん、業界の人達は真面目に商売されているんですけど、根本的なところで、そこに愛があるかどうかだと思います。

愛とは何か?住宅業界で感じた違和感と新しい提案

きむら

愛があるかどうかというのは、お客さんに対する愛情なのでしょうか。

島原さん

そうですね。お客さんに対する愛もありますし、商品そのものに対する愛もあると思います。ましてや住宅は商品であると同時に暮らしの文化でもあります。専門的に住宅や不動産に関わることになったのは、雑誌ゼクシィを担当した後の2006年のことです。ゼクシィでは、結婚する世代の人たちを対象に、アンケート調査やインタビューを沢山やっていました。接してきた人達は、数年後に家を買う可能性が高く、結婚したら引っ越しもする感じの世代。ゼクシィ読者の声を聞いてきた僕の感覚からすると、住宅のほうに移って感じた違和感は大きなものでした。マンションの広告やチラシを見ても、どこか重ならないんですよ。あの人達が、この広告や商品に惹かれて本当に家を買うの?という。

くどう

これまでとは異なる分野で感じた違和感を、どのように解決されたのですか?

島原さん

異動後の最初の仕事で、「不動産の10年後、20年後のマーケットはどうなっているか?」というお題が出たんですよ。僕は、住宅関連業界のことはよくわからないものの、これからの世代が将来の中心的な購買層だったり、顧客層ということを実感していました。そこで、この人達の価値観や情報収集行動から考えたら、今の住宅業界っておかしいぜ!という話を書きました。それが、僕の住宅に関わる最初のレポートでした。

きむら

おそらく当時は、そういった視点で調査したレポートが世の中に出ること自体が貴重だったのでは?

島原さん

当時の僕は、不動産業界に全くコネもなく、何もわからないところから始まりました。今思えば、先入観が無い状態だったからこそ、独自のモノができたのかもしれないですね。調査レポートを外に発表したら好評だったので「毎年こういうのを出そう!」という話になって。翌年になりますが、当時は口コミサイトの出始めで、不動産業界の人達はネット化するのも遅かったこともあり、そういう流れがとても嫌だったんですよ。なので、その口コミや掲示板がマンションの購入行動にどういう影響を与えるのかも分析してみたり。

きむら

不動産や住宅はクレーム産業だという自覚があるから、口コミや掲示板を嫌がったのでしょうね。

島原さん

あとは、当時から中古住宅市場の活性化も国の課題としてありました。学者さんが中心になって研究し、レポートをまとめていたけれど、「価格が不透明だったり、建物の性能が不安だから中古は売れない。」という指摘が多かったですね。僕も自分が家を買った経験があったのですが、本当にそうなのかなという違和感がありました。そうは言っても不動産業界の知見もなかったので、アメリカやヨーロッパに取材に行きました。

リノベーションの時代と、センシュアス・シティのはじまり

ヨーロッパ取材で訪れた、フランス・パリの街並み。古いものと新しいものが時代の変化とともに融合している。

くどう

国内だけでなく海外にも目を向けられたのですね。日本と海外の違いは、どんなところだったのでしょうか。

島原さん

あっちは、圧倒的に中古住宅が主流のマーケットです。それが普通なんですよ。実際に物件を見て不動産巡りもしてみると、住宅を購入したい人は新しさを求めてはないことがわかりました。いいロケーションにある古い中古住宅を買って、素敵にリノベーションして、機能的には現代的な暮らしに合わせるのが普通の選択肢でした。そこで「これからは、中古住宅の流通を活性化したいなら、リノベーションなんじゃないですか?」ってことを書いたんですね。国内でも、いち早くリノベーションを手がけていた会社を対象にインタビューをしました。

きむら

「中古住宅は嫌だ」という声があがる時代に、どんなリノベーションをするのがいいかに気づき、そこを切り拓いたんですね。

島原さん

住宅業界は、縦割りに細分化されていて外から見ると分かりにくい。ハウスメーカー、不動産デベロッパー、仲介会社、リフォーム会社、設計事務所、工務店とパッと頭に浮かぶだけでも細かくあります。このままだと、中古住宅を買ってリノベーションをするにも、どこに頼めばいいの?という状態になりかねない。当時は、リノベーションの定義もできない状態でした。なので僕なりに調べて、アンテナに引っかかった会社に声をかけました。取材を進めていくと、業種は違ってもみんな同じことを考えていることがわかって。でも、横の連携も無いままだったので、全体で話せる会議をセットしたところ、「リノベーション住宅推進協議会」という業界団体になっちゃったんです(笑)。

きむら

つないじゃったんですね(笑)。

よしだ

島原さんのお話を伺っていると、住宅の分野においても徹底して消費者目線ですよね。住宅のあり方を問うというか、一度しか買えない高価なものについて、愛を持って考えている様子が伝わってきます。

島原さん

僕にとっての問題意識は、賃貸住宅業界とか市場やユーザーも含めて、愛がないよねみたいな話だったんです。これは、愛としか言いようがないんだけど、この足りなさはなんだ!という思いがずっとありました。経済を回すためだけの歪んだ構造ではなく、消費者が住まいを喜んだり満足できることがしたかった。余談ですが『愛ある賃貸住宅を求めて』という賃貸住宅のレポートも書きました。

くどう

その後は、LIFULL HOME'S総研の所長に就任されて、特定のクライアントのためでなく中立的な立場から、住まいの未来や住宅市場のあり方について提案を続けられていますよね。

きむら

近年では、「センシュアス・シティ(官能都市)」という言葉をキーワードに、街を再評価する試みも行われていて。

島原さん

はい。日本語にするとセンシュアスは「官能」という言い方になるのですが、英語の「Sensuous」のニュアンスは、もっと感覚的で五感を楽しませるような意味合いです。「官能都市」が意味するのは、人間の生身で都市を評価してみようという目線。これは、僕が調査を始めた頃から触れていた官能評価というものに通じていたりします。この人間の五感による評価は、身近な消費財では行われるものの、都市については行われていませんでした。

官能調査/官能評価

人の五感に訴え、人が五感で評価するような「食品や飲料、化粧品、家電用品、アパレル関連衣服」などの消費財に対し、製品開発途中の段階で特徴を誰にでも理解できる数値や言葉で表現すること。

失われる街の姿。都市の魅力を測る、新しい物差しを求めて

きむら

これまで都市に対して行われていなかった、官能による評価をなぜしてみようと思ったのですか?

島原さん

これは、社会で生きる全ての生活者が、住むことと無関係でいられないことに深く関わっています。自分たちが、どんな街に住むと幸せなのか?あるいは、自分が住んでいる街が魅力的になるにはどうしたらいいか。その、都市の魅力を測る「新しい物差し」を提案することで、これからの都市がどうあるべきかを考える価値観を提案したいと考えました。経済合理性や機能性でハコモノを重視しすぎる物差しとは違う価値観ですね。

くどう

社会そのものというか、ライフスタイルや価値観も多様化していますよね。何が幸せなのか?という問いは、おそらく皆が持っている物差し=感性の話だと思いました。

島原さん

個々の住宅で広がってきたリノベーションの流れが、「街づくり」の領域に入っているのは間違いないと感じていました。元々あった建物を壊して新しく建てることは、文脈や時間を含めた、ある種の断絶を生んだり破壊する話になる。そこで、中古住宅をリノベーションして使い続けることは、住んでいる人が安く手に入った物件で、自由に自分らしさを追求できて良かったという以上の意味があるだろうなと。そうした背景から、センシュアス・シティの構想は生まれました。

きむら

これまで調査してきたことが、センシュアス・シティにつながっているのですね。これも島原さんならではの視点に感じます。

島原さん

僕のベースには、なぜ次から次へと再開発されて似たようなものばかり作るのだろう?という疑問があります。社会性が問われているのはもちろん、不動産の本質的な価値は場所です。良い街や人気のある街であるということは、不動産の価値が上がる訳ですよね。なので、他とは違う個性で街の魅力や価値を上げていくような行為が、社会性も経済性もあるということですね。

くどう

いわゆる再開発は実際に街に住んでいる人からすると、本当に嬉しいこととは違うかもしれませんよね。

島原さん

そうですね。一度再開発をしてしまうと、元々の街の個性を失っていくことになります。その街の特徴を全部壊して、タワーマンションや超高層オフィスを建ててチェーン店が入る。建設業的には経済性があるけれど、長期的に見ると街の価値を上げましたか?と問われる話です。しかし今現在はそこで暮らす人たちにとっての価値を測る物差しがないので、再開発の大きさによる正しさしか評価できない。

経済性も同じで、お金が沢山動きます。都市工学的にも、地震や火災に強いことが正しいとされます。だからと言って、古いものが正しくない訳ではないと思うんですよね。ルイス・カーンという建築家が「都市っていうものは、朝に少年が出かけて行って夜帰ってくる頃には、自分が一生かけて取り組む仕事が見つかっているような、そういうところ」と言いましたが、日本の昔というか、古くからの街はそうだったと思います。要するに、多様性が大事だということです。

社会性と経済性の狭間で、問いかける正しさを考える

島原さん

長い間そこに存在したモノについては、生活レベルにおいて何かしらの価値が認められていたからこそ存在していたと思います。既に最初に建てたときの用途としては価値がなくなっていたとしても、古い建物は風景の一部として街の個性をつくる要素だったはずです。そのような古い建物が、街の魅力の源泉になっている部分があるにも関わらず、これを正しく評価する物差しがなかった。これが、ストックリノベーションから、センシュアス・シティをやる時の一つの大きな問題意識でした。そして、街に関して言うと工学的に測れるものの限界というか、測れないものの価値を僕たちは可視化しました。

きむら

リサーチャーの島原さんが大切にしてきたと思うことは、どんなところですか?

島原さん

それが...実はそれを言われると一番わからないんですよ(笑)。

くどう

自分で言い当てるのは難しいかもしれませんね。わたしたちは、島原さんのお話は、ものすごく一貫しているなと受け取っています。

島原さん

確かにおっしゃる通り、おそらく一貫した思いで本をつくってきましたかもしれません。それは、問いが大事ということです。答えよりも大切だといつも思っています。

よしだ

答えよりも問いが大切。

島原さん

問いの質が大事だなっていつも思います。調査は、やってみると何かしらの結果が出るんですけど、どんなに高度な調査が成功したとしても、そもそも問いかけた問いが、しょうもないものであれば、その答えは意味がないというか。あんまり価値があるものではなくなってしまいます。問いの志みたいなものがある程度正しければ、トライして出した調査結果の答えが未熟でも、誰かがその志を拾ってよりよい研究や実践に発展させてくれるんじゃないかなって思います。

きむら

そもそも、何のためにするのか?が大事ということですよね。

島原さん

そうですね。それで幸せなの?とか、これがフェアなのか、正しさとは?ということも同じで。例えば、賃貸住宅のレポートで『愛ある賃貸住宅』というものを書きました。この時、一緒に仕事をしているメンバーから「そもそも家賃って何ですかね?」と問いかけられたんです。僕は、所有ではなく、専有する床面積や設備に対して支払うもの...というような業界的な定義をしてたんですね。そのとき、払っている感覚を考えたら、これって嬉しくないお金だよねという話になりました。世の中には、お金を喜んで払う消費財もあるけれど、どちらかと言うと家賃はイヤイヤ払う感覚。

よしだ

同じお金でも、イヤイヤ払うのと喜んで払うお金とでは、とても大きな違いがありますよね。

島原さん

現代では、シェアハウスなどのコミュニティの価値のような部分が、住む人のモチベーションになりうると思います。それまでの賃貸住宅市場では、効率的に稼ぐためにコミュニティというものを排除する方向だった。だけど、なくそうとするよりも、取り入れた方が賃貸住宅として上手く回って経済性もありますよね。大切なのは、生活者の満足度があるかどうか。今一番わかりやすい例で言いましたけど、「家賃て何?そもそも何のためのお金?イヤイヤ払ってるお金だよね」と言うような、その問いの質次第で見えてくるものが違うのではないかと。

きむら

とっても演繹的で、且つ、消費者目線につながる視点ですね。

くどう

今回は、島原さんが関わられた幅広い調査に裏付けされたお話を伺うことで、感性豊かなモノや街を見つめる視点に刺激を受け、新しい物差しを手にした気持ちになりました。みなさん後編も、どうぞお楽しみに!

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