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客員研究員との対談その8<前編>身近な食を教育の世界へ

福本 理恵(ふくもと りえ)
異才発掘プロジェクト ROCKET

東京大学先端科学技術研究センターの交流研究員を経て、東京大学大学院博士課程に進学。心のメカニズムを探るべく認知能力(モノの捉え方)についての研究を行う。自身の体調を崩したことをきっかけに、日々の食の重要性を再確認する。「豊かな心は、楽しい食卓から」をモットーに、「種から育てる子ども料理教室」のカリキュラム作成および運営に携わる。2014年からは東京大学先端科学技術研究センターにて、農と食から教科を学ぶ「Life Seed Labo」を企画、2014年より「異才発掘プロジェクトROCKET」のプロジェクトリーダーとしてカリキュラム開発に携わる。
異才発掘プロジェクトROCKET

所長きむら
こんにちは、所長のきむらです。今日はよろしくお願いします。当研究所は、2016年7月に立ちあげ「H=ms2」をテーマに研究を続けています。
所員くどう
今回は、ユニークな子ども達が"彼ららしさ"を発揮できる空間を創造する「異才発掘プロジェクトROCKET(ロケット)」の福本理恵さんにお越しいただきました。
福本 理恵 さん
はじめまして! 今日はよろしくお願いします。

異才発掘?!ROCKETってどんなところ?

きむら

僕たちが研究している「H=ms2」というのは、Happiness(幸福)、money(お金)、sense(感性) を表しています。これは、仮に公式があるとしたら、今の世の中にお金は必要だけど、感性が豊かであれば幸せは大きいのではないか?という意味合いの公式です。 毎回、さまざまな分野で活動されている客員研究員の方々をお招きしてお話を伺っています。

よしだ

今回は、 農と食を通じた教育を実践する「Life Seed Labo」を企画・主宰し、「異才発掘プロジェクトROCKET」のプログラムにも深く関わられている福本理恵さんに、農と食などの分野で育まれてきたこと、教育関連で関わられているプロジェクトについて伺いたいと思っています。

くどう

まずは、そもそもROCKETとは?というところから聞いてみたいですね。どんな活動をされているのでしょう。

福本さん

ROCKETは Room Of Children with Kokorozashi and Extra-ordinary Talents(ルーム・オブ・チルドレン・ウィズ・ココロザシ・アンド・エクストラオーディナリー・タレンツ)の略で、日本語で言うと「特異な才能と志をもつ子どもたちの部屋」・「 空間」という意味です。日本には全国各地に、ユニークさ故に環境に馴染めない子ども達がいます。学校にいなければならない事で不適応を起こす現状がありまして。彼らには彼らの、新しい学びの場所と自由な学びのスタイルが必要です。そこで、東大先端研(東京大学先端科学技術研究センター)と 日本財団が、東京大学を拠点に始めました。

くどう

ROCKETのKになっている「Kokorozashi」というのは「志」のことですよね。参加を考えている全国各地の子どもたちが、自らの意志で応募しているそうで。スタートから今、何年くらいですか?

福本さん

ROCKETを始めて、もう4年目です。わたし達は、子どもの意志を何よりも大切に考えています。 小学校3年生から中学校3年生を対象としているのですが、大切なのは親御さんがというよりは、子ども自身が何をやりたいか。初年度は、「何かユニークな才能を持った子どもの教育を始めるらしい。」「スタンフォード、ハーバード、東大、そのあたりに入れる子どもたちを育てるらしい。」という大きな誤解を生んでしまいまして...。実際は全くそうではないんですけれども、初めはそういう誤解が多かったですね。

きむら

「特異な才能と志をもつ子どもたち」と聞いたときに、思いつくイメージかもしれませんね。

福本さん

ROCKETでは、選抜された子ども達が異才であると評価しているわけでも、彼らを万能な天才に育てるプロジェクトでもありません。ただ、本人の興味がある・なしに関わらず様々なプログラムを提供するので、その中で学び方や生き方のエッセンスを感じて過ごすという期間があるんです。1年目は領域を横断しながら、色んな興味を増やしていくような授業をずっとやっています。

子どもに必要なのは何か?を考え続けた学生時代。

きむら

福本さんご自身は、教育分野だけでなく心理学を学ばれて、子どもの認知能力などを研究されてきたんですよね。

福本さん

はい。元々は教育学部で、教師になりたいと思っていました。当時、実習先の学校で関わりを持った、クラスで取り残されてる子どもがどうしても気になってしまって。学校教育の基本は一斉に授業をする、教科書を使って進めていかないといけない教科学習です。しかし、そこにスタート地点が置けない子ど達もいるんですね。貧困の問題や家庭内不和など、いろいろな環境で生きているので、学校に来ても勉強に身が入らない。それで、友達と暴れちゃったり、教室の隅で小さくなっている。そういう子達に、学校は何を提供できるんだろうと思った時に、心理的なケアをしつつ、学びの目標を既存とは違うところに設定できる人が学校に入らないと、救われない子どもがいるんじゃないかと思って、その後は心理学を学びました。

きむら

そういう風に思考される方は少なかったんじゃないですか? しかも、既存にはないアプローチで問題を解決しようとしている。

福本さん

そうですね。学校の中に、「勉強が好きでなくても人生は楽しいんだよ、こういう苦労があるけど、それが実は学びになってるんだよ」みたいなアドバイスをくれる人がいれば、ずっと救われるのに。という思いがありました。

よしだ

そこに必要だったのが、心理学だったのですね。

福本さん

心理学が教育の中や、学校の勉強としてなぜ入ってないんだろう?と思うほどでした。心理学と言うと、心が読めるのか?とか、心が病んだ時にカウンセリングをしてもらい浄化していくイメージが強いかもしれません。でも、心理学はすごく科学的な学問なんですよ。

きむら

心理学は、科学的な学問?

福本さん

例えば、光はどういう風に知覚されるのか。その知覚されたものが、脳の処理の中で明るいと感じるのか・眩しいという風に感じるのか、嫌な光あるいは気持ち良いと感じるのか。それは人によって全く違うというのを、「知覚」と「認知」に分けて処理をする。すると、この人が刺激に対してどういう反応傾向を持っているかを、物理量として扱えるようになります。実は、客観的な視点が必要なんですね。

きむら

心理学というと、大学では文学部だったりしますが、理系だと思うと見方が変わりますね。

福本さん

心の変化のように、目には見えないものを見える化してくれるのが理系の強みでもあります。感情を抜きにして、客観的な視点が入るのは必要なことでもあるんですね。親子の関係なんて正にそうで。感情的になりすぎるとヒートアップしますよね。お前が悪い!と、お互いに罵倒して解決に至らないところに、例えばLINEとかでやりとりをすると、それ以上は炎上しないことも。

よしだ

それは、どうしてですか?

福本さん

後で振り返れることで分析できるんです。それもある意味、心理学というか。分析や見える化など科学が入ることによって、感情を振り返ることで、感情を納めることができる。そういう意味でも、テクノロジーを使いながら子どもと関わるのは、必要なことでもあるのだと思います。

わたしは、食で人を救う。研究職から食の世界へ。

きむら

今は食のことに携わってらっしゃいますが、きっかけは何かあったのですか?

福本さん

わたしは研究に没頭すると、やりすぎちゃうところがありまして...。体調を壊したんですね。それで、きちんとしたごはんを食べることで生活を立て直そうと思いました。料理をして食べるってすごく当たり前ですが、もしもしなかったら何日か後には死ぬんだなって思ったんです。食事は、自分の命を次の日につなぐために、積極的に関わる行為なんだと気づきました。食べなかったら命の危機も起こるかもしれないし、誰かと食べればもっと元気がでて幸せな気持ちにもなりますよね。

くどう

食べることは、生きることの根幹ですものね。新たな気づきから、食の世界へぐっと引き寄せられたんですね。

福本さん

はい。そこからの転換がまた早くてですね。自分のやってる心理学は本当に人を救っているのか?と思い至りまして。当時の心理学の指導教官に「わたしは、食で人を救うことにしました」と伝えました。

きむら
よしだ
くどう

おおー!!

福本さん

もっと身近なことで、もっと簡単に誰でも参画できることがしたい。日々の中に、実は人を幸せにすることがあったんじゃないかと気づいたんです。って言ったら、先生がむちゃくちゃ良い人で、やりなさいと。「今までも辞めていった人の方が面白いことをやってるよ。でも辞めることは3年後でもできるから、次の扉がまだ開かない内に、ここの扉を閉めなくてもいいんじゃない?」と言ってもらえました。

きむら

素晴らしい先生ですね! 扉は開けておいたままでいいからと、背中を押してくれたのですね。

福本さん

本当に、素晴らしい先生です。すごく救われましたね。その後は、大学を辞めるのではなく、3年間休学して食の学校に行きました。どういうところに、食のパワーはあるんだろうと興味があって。通っていた専門学校は、生産者の方にリーチできるような授業をたくさん持っている学校だったんです。

よしだ

実際に食の世界へ入られて。食のパワーは、どういうところにありましたか?

福本さん

普通に生きていると、食べて、飲んで、何も生み出さないじゃないですか。そういう物理的に消費していくのではなく、何かを生み出していく。食べないと死んじゃうものをつくってる生産者の人たちが生み出してるパワーっていうのは、ものすごいなと思いました。そこのパワーを教育に入れることが必要なんじゃないか。食の生産者の人たちとの出会いの中で、そう思っていったんです。

くどう

生産者の方々が持っているパワーを教育につなげていく。福本さんだからこその視点ですね。

一粒の種からできること。教育と心理学と食が結びついた教室。

子ども向けワークショップの様子。10種類以上の種に粘土と土を混ぜて、直径1cmくらいの小さなボール状にしてつくる「タネだんご」。いろんなところに撒くと、それぞれの種の適温適水の状態で育っていくというもの。

福本さん

都会に来たときに、わたし自身すごく消耗したんですよね、心が。それ は、何もつくり出さないからだと思うんです。買って来たものをアレンジしてつくりだすっていう意味では、ある種生産してるとは思んですけど。元々わたしは田舎育ちで、実家でも野菜を沢山つくっていました。めちゃくちゃ豊かで、季節には採れすぎるほどの食材があって、食べものに困ることはなかったんですけど、そこのありがたみが都会にきて途切れてしまって。季節感もないし、命ある何かがこう、成長していってるみたいなのを肌で感じることもなかった訳なんですけど。食の専門学校に行った時に、それをまた再び感じたんですね。

きむら

都会に暮らしていると、食べものをつくっている現場を実際に目にする機会は少ないですよね。関わることがないと言うか。

福本さん

この一粒の種から、こんなに食べられるものができるってすごいですよね。でも、通常の生活をしてると、そこのプロセスは知らない訳です。スーパーで買ってきて、食べて、ゴミは捨てて、それの繰り返し。でも実際に、命を生みだして、そのパワーを食べて貰いながら、そしてまた還していくみたいな循環がないと、子どもたちが都会で暮らしていても疲弊するばっかりで、心理学が必要なのはそういう関係性もあるなと。当たり前になっていることが、実はすごかったんだというのが再確認できるような出会いがあった。それで、教育と心理学と食を結びつけて、何かできないかな?と思った時に、「種から育てるこども料理教室」という子ども向けのプログラムをやり始めました。

大阪・北加賀屋にある貸し農園「みんなのうえん」にて、実際に種から育てた夏野菜を収穫している子どもたち。

きむら

芽吹きがあって、また生きてるみたいな、そういう生の実感みたいなところですよね。きっと子どもも知っておいたほうが良いことで。基本的な、生きていくパワーというか。嫌なことがあっても、外にでて空気を吸って、ああ何か育ってきたなっていうのを見ると、元気が出そうな感じがします。

福本さん

そうなんですよね。プロセスを知らなさすぎて、何を選んだらいいのかっていうことさえもわからなくなってる所に、すごく危機感がありました。種から育てるこども料理教室でやっていたのは、子どもが自分で選んで、ひとつのものをつくることです。例えば、ドレッシングをつくるにも、甘味・酸味・塩味とかあるんですけど。そこを、甘味だったら、何種類もの甘味成分を用意します。砂糖も、三温糖とか黒糖、はちみつとか色々。それを全て食べてみて、どれが正しいかではなく、どれを美味しいと感じるのか、どれぐらいのバランスで組み合わせたら自分が一番ベストだと思えるドレッシングができるのかを何回も微調整しながら仕上げるというものです。

くどう

用意されたレシピ通りにつくるのではなく、子ども達が自分で考えてつくる大切さを感じます。

福本さん

それってすごく、今の子ども達に欠けてる部分だと思うんです。感覚をフィードバックさせながら、自分で心地よいという基準を決めていくことができない。 教科書から入って頭でっかちだと、それがないんですよ。これが良いとされてるからコレを選ぶ。そうじゃなくて、あなたは何が良い?どういう風に感じたの?っていうのを、全部感覚を通して確かめながら一つのものを選ぶ。ただそれだけなんですけど、自分の中に軸をつくる、感覚の軸をつくる。それを徹底的にするっていうものだったんですね。

面白いから学びたくなる!ROCKETの始まり。

福本さん

種から育てたものを自分で実際に収穫して、料理に入れていくんですけど、そこで学ばせたかったことの一つは「理不尽さ」なんです。今の社会では、自分の感覚の基準をつくることと同時に、理不尽なことを学ぶ機会が少ないんです。農業に携わっていたら、せっかく育てたものが台風で一気に無くなっちゃう、収穫したいのに虫に食べられていた。そういう理不尽さを、本来は自然から排除することができない。それでも、また種を植えたらやっぱりその分返ってくるものがある。理不尽さと必ず返ってきて貰えるものがある安心感。どちらもがないと、心理的な土台のところでしんどくなっちゃう。学校の中では、だいたいのことが予定調和に起きるから、予定調和じゃ無いことが起こった時に、怒りが爆発してキレちゃう子どもがいるのと同じで。

きむら

理不尽さという学び。「理不尽なことがあって当たり前」ということが忘れられていますよね。確かに農業にはそういうことがあって、その体験がROCKETにつながっていくわけですね。

福本さん

はい。今の上司であるROCKETのディレクターが、人間支援工学分野なのに、なぜか農業をやりたいって言い始めてたんですね。農業をipadと高齢者っていうキーワードで、新しい子どもの教育を始めたいと。東大の研究室から離れて5年ぐらい経っていましたが、 帰ってこないか?と声をかけていただいて。東大先端研に戻るきっかけを頂きました。食と農業で何ができるのかを考えたときに、現状の子ども達の様子を聞いてみたところ、読み書きができない子と学校で学ぶ理屈がわからない子がかなりいると。そこで、読み書きできない子どもたちにテクノロジーのサポートをしつつ、もう一つは、学校での学びがなぜ必要なのかわからない子どもたちに、その理屈を教えていくことが重要だと。

生活の中で、別に二次方程式は必要じゃないけど、買い物をする時に1個150円のものを5個買った時に1000円持ってて足りるのかなとか、それぐらいはできないと困るよねという話なんですね。大学に戻ってすぐに、料理から学びの本質を学んでいく「Life Seed Labo(ライフシードラボ)」を始めました。先端研の中でコンテンツをつくり、キッザニアさんが始めてたアウトオブキッザニアという、外で体験するコンテンツを一つ任せてもらってやり始めたんです。千葉県の柏の葉の貸し農園・オークヴィレッジのフィールドをつかっていました。活動にこそ学びの本質はある、このプログラムの考えをベースにROCKETができていきました。

約6,000㎡の農地にある、体験型貸農園「柏の葉・オークヴィ レッジ」のフィールドで行われたワークショップ。

くどう

「Life Seed Labo」は、ROCKETの原型にもなっているのですね。子ども達は、料理を通じて学びを深めていくのですか?

福本さん

はい、そうです。野菜を並べて1枚ピザをつくろう、このピザに乗せれるのはなんでも良いよと。ただ、ナスは何円など、スーパーで売ってるような金額と合わせながら500円以内で作ろうと設定すると、計算とかヤダと言っていた子が、肉をちょっとでも多く入れたい!っていう欲望の元にめちゃくちゃ計算し始めるんですよ(笑)。僕は、まだベーコンも入れたいんですと言って。設定を変えてあげるだけで、こんなにも計算を生き生きとできる。勉強は、まさに面白いからやってしまうのであって、押し付けられるものではないと。好きなこと・やりたい事が学びになっていく、そのサイクルさえ出来てしまえば子どもは勝手には学び始めるんじゃないかっていう発想でROCKETはスタートしたんですね。

きむら

面白いことって、理屈を超えて本人のものになりますよね。

福本さん

Life Seed Laboの基軸となっているのが「活動から学ぶ」。面白いと感じたことから、学びの循環がどんどん勝手に加速して調べていきたいって思う。なんで?と思うことが、実際の学びを深めていく。そのスイッチを押すのが実は楽しいと思える活動なんです。学校の授業は面白いことがないと言っている子どもにとっても、同じ内容を学んでいても活動にひも付いて知識を活用していくと、これは自分に必要だと思える場面設定ってたくさんあるはずなんですよね。

くどう

福本さんが学生時代から取り組んでこられた、心理学や農と食の世界での大きな気づき。その全ては原点として、子ども達と関わる今につながっていました。次回は、もっと詳しくROCKETのプロジェクトについても聞いてみたいと思います。みなさん後編も、どうぞお楽しみに!

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