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客員研究員との対談その8<後編>自分の中に基準を持てることがシアワセ

福本 理恵(ふくもと りえ)
異才発掘プロジェクト ROCKET

1981年姫路生まれ。東京大学先端科学技術研究センターの交流研究員を経て、東京大学大学院博士課程に進学。心のメカニズムを探るべく認知能力(モノの捉え方)についての研究を行う。自身の体調を崩したことがをきっかけに、日々の食の重要性を再確認する。「豊かな心は、楽しい食卓から」をモットーに、「種から育てる子ども料理教室」のカリキュラム作成および運営に携わる。2014年からは東京大学先端科学技術研究センターにて、農と食から教科を学ぶ「LifeSeed Labo」を企画、2014年より「異才発掘プロジェクトROCKET」のカリキュラム開発に携わる。
異才発掘プロジェクトROCKET

所長きむら
お待たせしました!福本理恵さんのお話の後編です。「身近な食を教育の世界へ〈前編〉」では、福本さんが教育と心理学の分野から、農と食を通してどのように人を救うことにしたのか。そして、ROCKETの始まりまでを詳しくお話いただきました。
所員くどう
後編では、ROCKETの活動拠点となっている東京大学先端科学技術研究センターにお伺いして、ROCKETについてもう少し深く聞いてみたいと思います。福本さんにとってのシアワセとは何か?果たして法則はあるのか?というところも聞いてみたいと思います。どうぞよろしくお願いします。
福本 理恵 さん
はい!よろしくお願いします。

ワクワクする大人達との出会いが広がる場所

ROCKETの活動拠点である「東京大学先端科学技術研究センター」は、宮崎駿さんが映画化された「風立ちぬ」のモデルにもなった場所と言われている

きむら

ROCKETのプログラムは、この建物内でされているんですか?

福本さん

はい。2014年12月に立ちあげました。ここは87年前の建物なのですが、壊してしまったら二度とつくれないということもあり、私の上司が「掃除は自分たちでするから壊さないで」とお願いしてスタートしました。

きむら

当時の面影があるというか、ここに1号館と書いてありますね。

福本さん

はい。元々はここで、日本で初めての飛行機をつくっていたんです。当時は、「航空宇宙研」という名前で。JAXAの前身として、宇宙関係、航空機関などの研究をしていた場所です。現在は、先端研のメンバーの研究室として、アーティストやデザイナー、投資家など各分野の研究者に各部屋をお貸ししています。そのかわり、例えばロボットやプログラミングに興味があるなど、子ども達が何かつくりたいというときには協力してくださいという感じで、いつでもバックアップ体制がとれるようにもなっています。

きむら

今も研究室としてこの場所が使われてるっていうのがすごいですよね。でもむしろ、こういうところのほうがワクワクする感じで研究開発できそうな気がします。先端研のメンバーには、どんな方がいるんですか?

福本さん

例えば、レゴのマインクラフト版やスターウォーズ版ってご存知ですか?みんながこういう商品が欲しいというアイデアを出して、一定数の人が集まれば実現化するという商品開発を進めていて。クラウドファウンディングの第一人者でもある西山浩平さんや、「Robi」や「RoBoHon」というロボット型携帯を作ったロボットクリエイターの高橋智隆さんなどがいらっしゃいます。昨年「毎日デザイン賞」を受賞されたアーティストの鈴木康広さんや、カドケシのデザインをされた神原秀夫さんもいらっしゃいます。

西山浩平さんが研究チームリーダーを務める、かみでロボットをつくる「かみロボット研究室」のパーツは、ダンボールやお菓子のパッケージなど身の回りにあるものを素材にしている

くどう

日頃、子ども達とどのような関わりがあるんですか?

福本さん

子ども達との間で面白いエピソードがありました。鈴木康広さんが、ロンドンビエンナーレに出展することになった時のお手伝いの話です。アクリル素材の人形の作品制作を、手伝えるっていう不登校の子がいて。最初はどこまで磨いていいかわからないから、「鈴木さん、これどこまで磨きますか?」って聞いて。 「もうちょっとだね!100%のうちの30%かな」と返ってくる。でまた磨いて。「鈴木さん、どこまで?」「うん、もうちょっとだね。100%のうちの50% ぐらいかな。」そしてまた磨いて。いよいよ「まだですかね?」って最後に聞いた時は「300%のうちの80%ぐらい。」って 。そして「君はいつまで僕に聞くんだ。磨きたいだけ磨けば良いんだ」と言われたんです。

鈴木康広さんの作品。制作を手伝った子どもは、トータルで300時間ぐらい磨く作業に没頭し、最終的にはアクリルの人形をガラスのような透明度に

きむら

面白いですね。最後は基準が300%になってる(笑)。

福本さん

そうなんです。100%が完成だと思ってることが間違いだと。結局、締め切り時間ギリギリまで100%以上の力を出して初めて、そのものが活きる。気づかずに100点を目指していく教育がしみついちゃって、そのことを忘れている。でも、そうじゃないんだと。好きなところまでやって、自分で決めて納得できればそれはゴールになるかもしれないし、納得できないままゴールが時間として来てしまうかもしれない。でも、そこまで走り続けられたことに、すごく幸せを感じるというか。それを感じる教育じゃないといけないんじゃないのって思います。それを子ども達に教えてくれる鈴木さんてやっぱりすごいなぁと。

結果ではなく、どんな過程があるのか?を学ぶ

くどう

たくさん部屋がありますね。ここは何をするお部屋なんですか?

福本さん

大人のためのミーティングルームです。ここにある椅子は定期的に変わっていくんですよ。すごい数の椅子でしょ?そして全部違う椅子。実はこの椅子は、教材なんです。例えば、こういう一枚の木を曲げてつくるのは技術的に近代のもの。どういうネジが使われているか、どういう木材をつかっているのかなど、違いのある椅子を比べてみます。そうすることで、近代や産業革命の話をしたりだとか、そういう展開をつくっていける。これも椅子を通した教育なんです

よしだ

その時代のその時に、よくとれた材料で且つ、そういう時代だから職人さんがゆっくり時間をかけてつくっていたからこそ、アンティークとして価値がいきるということですね。

福本さん

なぜその時代に工業化が進んだのか、なぜ大量に必要だったのかという背景もわかりますよね。そこから子ども達が議論するきっかけになればいいなと思うんです。普段の生活の中で使っているお箸ってどうやってつくられたのかな、なんでこの木を使ったんだろう?って疑問が湧いてくるし、そのきっかけづくりをするのが、わたしたちの役目なんじゃないかなと思うんです。

きむら

身近なものから紐解いていくと、わかることも多くありそうですね。

福本さん

椅子というともう一つ、ROCKETの一年目に椅子を解体して再生するプログラムを行いました。子ども達に解体してと言っても壊し方も知らない。圧力かけて引っ張るとかすれば壊れるはずです。でも、力のかけ方もわからないから全然取れない。そこで、わたしたちは「ここから落としたら壊れるもんだよ」と言って放り投げると、パキッって(笑)。

椅子を解体した後、組み立てて修理をする子どもたち

福本さん

昔は動物の骨などを煮出した接着剤である膠(にかわ)を使ってたんです。それを使っていたから、バラした時に黄色いポロポロした粉が落ちて、そのために解体して修理してまた再び使うことができたんですね。でも再生する時に、子ども達が使ったのは普通の化学接着剤でした。なんで化学接着剤使ったの?と聞いたら、「めちゃくちゃ便利だし、すぐ乾くし、黄色い粉もあったけど、すごい煮出すの大変だし...。全然くっつかなくて乾かすのに何日もかかって扱いづらい。今時、あんなの使う人いないよ。」と言っていて。その時に、うちの上司が「ふーん。ところで、君ら家では扱いにくい子どもたちって言われてるよね。そういうのは使われなくなって、世の中から消えていくんだぁ。」 って言ったんです。

よしだ

うまいこと言いますね。

福本さん

そうしたら、子どもたちが「膠を使って、もう一回やっていいですか?」って。扱いにくいものが残る意味、それはなんなのか、子どもたちは自分たちの存在に照らしながら、「なぜ必要なのか?」ということをを教育していく。過程で何を学ばせるか、どういう哲学をいれていくかっていうのがROCKETのみそなんですね。

活動を通して基本を学ぶ、自分で考える。

福本さん

ここがキッチンなんです。

きむら

おおー!古い建物と最新型キッチンのギャップがすごく良い。

鏡面仕上げのされた壁面が光るキッチン。表示も全て英語にするなど、随所に教育的な意味が込められている

福本さん

このキッチンをつくる時に、すごく考えました。そもそも、ずっと引きこもってた子が普通の家庭科室を作ったところで来るわけがない。一流のシェフが来られても、見劣りせずに「このキッチン良いね」って言ってくださるような、そういうキッチンをつくろうと。鏡面仕上げのキッチンをつくってもらいました。子ども達ってすぐにいろんなところを触りたがるんですよ。触ったときに元々綺麗だったところだと、汚れた時にすぐわかる。触ったら指紋がすぐ付いちゃうんですけど、そういうのに気づかせる。それに、普通のキッチンに比べてわざと高くつくられています。いい加減に切ろうと思うと、怪我が多くなるので、不便を感じさせることによって、より注意が向くように設計しています。自分の頭を使って体を動かしながら考えようということを教えてくれるキッチンなんです。

きむら

ROCKETでは、どんな感じの1日を過ごしているのか教えてください。

福本さん

そうですね、日にもよりますが、最初に1日の流れを共有します。ROCKETには二つのプログラムがありまして、一つは「アクティビティベースドラーニング」という、体験を通して知識や技を楽しく学ぶ活動があります。

くどう

実際に、どんなことをしているのですか?

福本さん

例えば「今日は100g2000円の肉を買ってきたんだ。これ、美味しいと思う?」って言いながらローストビーフをつくります。お肉に塩を塗って、「なんで塩を振るんだろう?」みたいな話から浸透圧の話をしたり。「普段買っているお肉と違ってなんでこんなに高いのかな」というところから、お肉にかかる関税の話や放牧や酪農の話などをしています。そういった感じで、いろんな教科に結びつけていくのがアクティビティベースドラーニングです。次の週には100g150円のお肉を食べて、どう違うのかを比較させていく。比べながらいろんな切り口の話題を持ってみると、世の中で学ばないといけないことって、普段の生活の中でも学べることが分かるんですよね。

よしだ

身の回りにあることが、学ぶ機会になっているとわかると面白さも広がっていく感じがします。

福本さん

そこの面白さに気づいていった子どもたちが、実は自分は科学に興味があるんだとか、大工仕事やものづくりに興味があるっていうのが見えてくるわけです。そこから今度は、やりたいことの必然性の中に学びをデザインしていくと、学ぶ範囲が広がると思っているんです。

子ども達が失敗しながら考え、知識を獲得していく時間。

福本さん

もう一つは「プロジェクトベースドラーニング」と言って、長期に渡ってやっていくものがあります。最近は「ある人の、思い出の味を再現しよう」という食のプロジェクトをやりました。他人の記憶の中にあるものを再現するのはとても難しい。「確かあのワッフルは酸っぱい味がした。嫌な酸味じゃなく、レモンの酸味でもなく、ビールのホップのような。」、「外はカリカリで、色はこういう色で。」それくらいの情報しかないんです。結局のところ、言葉で引き出すしか情報を入手できないんですけど。レシピって決まったものがあったら、それ以外のものはつくらない。でも人生っていうのは、何かを試さないと自分の納得できるものにたどり着かないし、今回の場合、そのたどり着きたいところが人の頭の中っていう。だから、止めどない実験を繰り返していく。

科学技術の話をする子どもの中には「わたしは実験をやりたいんです」という子が多いんですけど、ワッフルづくりも実験なんですよね。研究者って、本当に小さなパラメーターを変えながら、その中で比較する視点を自分の中につくっていく。その視点を、ワッフルを焼く中で子どもたちは獲得していくんですね。はたからみると、ワッフルを焼いてるだけなんですけど、ただワッフルを焼いてるんじゃなく、ワッフルでサイエンスの視点を学んでいく。ROCKETには実は必ずはじめにするプログラムがあります。それが「解剖して食す」という授業です。

きむら

解剖?!どういうことですか?

福本さん

今年は用意したのが小麦の粒だったんです。この粒を、まずは小麦粉にしようというわけです。1人150g必要で、どんなやり方でも良いからこの粒から白い粉を出してと伝えました。人類が小麦粉をつくるのに5千年くらいかかっているところを、5~6時間かけて人類の進化と同じ過程をたどります。そういう、ものすごく手間のかかる教育をROCKETの中でやっていて。いろんなものが、普段の生活の中に満ち溢れていてお金を出せば買えます。でも、それを実際に得ようと思ったときに、自分はどういうことをしなければいけないのか。つくっている人たちが、どれだけすごいのかを知って初めて自分の位置をわかる。だから、あえて手間のかかることをさせながら、学び方や知識を生み出していく方法を子ども達に示していくプログラムです。

よしだ

小麦をつくることで、人類5千年の旅をするわけですね。 なんだか途方もないことに取り組んでいるような。 子ども達には、すり潰したりするんだよって事前に教えずに渡していくんですか?

福本さん

はい。子ども達はかなり試行錯誤しますね。今の学校教育は、時間割があって教科書がある。その2つが制限をかけ過ぎてるっていうのが、私たちの考えです。教科書が無かったら、みんなが一つの答えを求めて同じものを作るのでなく、一人一人全く違うものが出来あがるんですよ。そこを辿るルートは全く違うわけなんです。過程の中で、色々失敗するんだけど失敗は本当に失敗なのかっていうのは、わからないわけじゃないですか。今は、そこまで親も先生も待てないんです。そういう社会になっちゃっているところに、実は大人は気づいていないことに問題があるんじゃないかなという気はします。

くどう

1年間こういうプロジェクトを通過していくと、子どもたちは変わりますか?

福本さん

変わりますね。普通に学校に行く方が良いって戻って行く子も半分ぐらいいます。もう半分の子どもたちは、吹っ切れるんです。学校はもういいですと。例えばこの教科の時だけは勉強しに行くけど、他は何言われようが、もう僕には好きなことがあるし、これを突き詰めてやりたいからと、好きなことをどんどんやるサイクルにのめり込んでいく。

福本さんにとって、シアワセの法則ってありますか?

きむら

大きな変化ですよね。プログラムを終えると、卒業なのでしょうか?

福本さん

ROCKETに卒業は無いんです。

きむら

そうなんですか。じゃあ、引き続きずっと継続している。ということは、並行している訳ですか?

福本さん

そうです。今は90名近くの子どもたちが正規のプログラムに参加している子どもで、それ以外は、読み書きができない子や、心理的なサポートが必要な子ども、ゲーム依存症の子とか、色んな層の子ども達に違うプロジェクトを立てて、同時並行でやってます。登録数で言うと1500人ぐらいいます。でもその中のみんなが、何かを必要としている訳ではないんです。読み書きだけ保証されれば普通に学校に行ける子もいるし、心理的なところで自分の中で立てかけていた壁みたいなモノがなくなれば大丈夫な子もいる。でも、どっちにも行けない悩みの中にある子どもたちがその状態でいる事が苦しい。そこに、何があったら良いのかっていうのを私たちは提示しています。

きむら

ところで、福本さんにとって幸せの法則をお聞きしたいです。福本さんは活動の中で、子ども達の道づくりになればという思いが、これまでのお話の中にもいっぱい詰められてますけど、敢えて言葉にするとしたらどんな言葉になりそうですか?

福本さん

一人一人が自分の中に基準を持てるかどうかだと思います。社会の基準や他人の基準を参照しながら、最後は自分で基準をつくって納得できるかというのが、幸せになれるかの秘訣なんだと思うんです。自分の中での基準は動き続けるんだけど、揺さぶられる事によって基準の幅が広がったり、ここは自分にとって絶対に揺るがしたくない基準なんだっていうのが見えてくる。そこの部分を見つけていくことが、人生を通して学んだり、いかに幸せに暮らしていくかっていうことの根幹にあるんだと思います。

くどう

そういう話を学校の先生が何かの時に、ちゃんと言ってくれる時間があると良いんだろうなって思いますよね。 子ども達も、その時は分からなくても心に残ると思うんですよ。教科以外の部分で、ここだけはしっかりしろよって言える人が先生になっていると安心ですよね。

福本さん

本当にそうですね。これからは、先生っていう概念が変わってきて、知識を教える人ではもう無くなると思ってます。大人一人一人が、自分はこういう者で、こういう考え方をしてます、だからこういう風にふるまいます。これを大事にしてます。ということがきちんと言えれば、その人の基準は話している相手にも伝わる。そこが、みんな一緒じゃなくても良いんです。違うからこそ、その相手を揺さぶる事ができるし、そこで生まれた不和みたいなところを埋めたくなるから、コミュニケーションが発生する。だから、子どもも大人も含めて、一人一人が基準を持って生きれたら、より良い社会になるし、より幸せな方向に行くんじゃないかなと思います。

よしだ

生きることの根源である「食」をきっかけとして、子供たちの関心を「世界」へと広げていく―その活き活きとした発想が素晴らしいなと思いました。プロジェクトを通じて、子供たちはきっとたくましく成長しているんでしょう。

きむら

自分の基準をつくるって、大人もなかなかできない世の中になってきている気がします。それが、「食」など身近で当り前と思っていることの"知"に、あえてゼロから取り組むことで変わってくる...大きな気づきがありました。

(対談を終えて...)所員くどうのひとこと
教育の中に心理学を。心理学ではなく食を。と、常に人のためにどうすればという福本さんの熱い思いと探究心が、新しい学びのかたちを生みだしているんだなと。日常の中で見習いたいことが沢山あります。自分の中に基準をもてるか・・・人のために真正面からぶつかり、揺さぶられた分だけ、揺るがない強さを感じました。
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